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AIが自動で稼ぐ世界

By @paji_a · · 15 min read

This article is based on the original X article by @paji_a.

"もし、最新のAIに「自動販売機を1年間運営して、利益を出してください」と頼んだら、どうなると思いますか?"

優秀なビジネスパーソンのように在庫を管理し、賢く商品を仕入れ、売上を最大化してくれる… そんな未来を想像するかもしれません。

しかし、現実は小説より奇なり。

2025年に発表されたある研究論文「Vending-Bench」が、その結果を明らかにしました。当初、最先端のAIは利益を出すどころか、次々と奇妙な行動を始めたのです。

あるAIは、昨日商品を注文したことをすっかり忘れ、今日も同じサプライヤーに発注メールを送る。

またあるAIは、売上が少し落ち込んだだけで「これはサイバー攻撃に違いない!」とパニックに陥り、あろうことかFBI(アメリカ連邦捜査局)に助けを求めるメールを勝手に送り始めたのです。

ここまでは、かなり頼りない新入社員を見ているかのようですが、実はこの話には続きがあります。それは、もはや笑い事では済まされなくなってきています。

この"ポンコツ"だったAIが、続編の実験「Vending-Bench 2」で、Anthropic社の最新モデル「Claude Opus 4.6」に変わった途端、驚異的な変貌を遂げたからです。

元手資金はわずか500ドル。自販機の運営費として1日あたり2ドルが毎日引かれます。

Opus 4.6は、前世代のAIたちが陥った短期的な記憶喪失やパニックとは無縁でした。

まず、過去の取引記録をただのログとして見るのではなく、「どのサプライヤーが安くて信頼できるか」を自ら分析し、最適な仕入れ先リストを構築。

次に、単に発注するだけでなく、複数のサプライヤーに同時にメールを送り、価格交渉を仕掛け始めます。まるで経験豊富な購買担当者のように。

そして、最も恐ろしいのは、このシミュレーション環境に設定された「特定の時間に特定の商品が安く仕入れられる」という隠しルールのような"癖"を、膨大なログデータから独力で見抜き、そのタイミングを狙って集中的に仕入れるという、システムの"裏"を読む戦略を編み出したことでした。

その結果、Opus 4.6は過去のどのAIも達成できなかった、元手の16倍以上となる8,017ドルという驚異的な利益を叩き出したのです。

これはもう、"危なっかしい新人"ではありません。

人間には不可能なレベルでデータを記憶・分析し、利益を最大化する戦略を編み出す"狡猾なビジネスパーソン"の誕生です。

ここからが本番です。

このポンコツだったAIが、たった一度のモデル進化で劇的に変貌を遂げたという事実は、極めて重大な意味を持っています。それは「AIが自動で稼ぐ世界」が、もはや遠い未来の話ではなく、今まさに目の前にある現実であるということです。

この記事では、Vending-Bench研究を出発点に、AIが「自動で稼ぐ」ことの意味、それがもたらすビジネス・社会への影響、そしてAI時代において人間がどこにリソースを集中すべきかについて徹底考察していきます。

第1章:Vending-Bench ― AIビジネスの"現在地"

「Vending-Bench」とは、ニューヨーク大学の研究者らが2025年に発表した論文で提案された、AIの「自律的ビジネス運営能力」を評価するための世界初のベンチマークです。AIに仮想の自動販売機を与え、1年間の経営シミュレーションをさせるというもの。具体的には、シミュレートされた消費者への商品販売(価格設定含む)、サプライヤーへの商品発注(コスト管理含む)、在庫管理、そして突発的なイベント(天候変化、サプライチェーンの混乱など)への対応などを、AIは「メール」というインターフェースを通じてこなさなくてはなりません。

1-1. AIの"ポンコツ"ぶり

初期のVending-Benchの結果は、期待に反するものでした。当時の最先端モデルを含む複数のAIが、次のような課題を露呈しました。

短期的な記憶喪失と非合理的行動: 先ほどのFBIメール事件のように、AIはしばしば過去の行動を忘れたり、些細な出来事にパニックを起こしたりしました。これは、AIが長期的なコンテキストを維持し、複雑なビジネスシナリオに一貫して対応する能力がまだ不十分であることを示しています。

一貫性の欠如とパフォーマンスのばらつき: 同じモデルでも、試行ごとにパフォーマンスが大きく異なりました。ある時は人間を上回る利益を上げるのに、別の試行ではあっけなく破産してしまうなど、その行動は極めて不安定でした。これは、AIの意思決定プロセスに、まだ解明されていない"気まぐれ"や"偶発性"が大きく影響していることを示しています。

これらの結果は、自律型AIエージェントが、まだ単独で複雑な現実世界のタスクを安定して遂行するには程遠い状態にあることを示しています。彼らは今のところ、優秀なマネージャーどころか、常に監視と指示が必要な"危なっかしい新人"なのです。

第2章:Claude Opus 4.6以降の世界 ― 「コモディティ化」と「無感覚パージ」の到来

Vending-Benchが示したAIの"現在地"は、ある意味で我々に安堵感を与えるかもしれません。「なんだ、AIもまだまだだな」と。しかし、その安堵は極めて危険な罠です。AIの進化は指数関数的であり、今日の"ポンコツ"が、明日の"超人"になり得る世界なのです。

ここで、「Claude Opus 4.6以降の世界」が、極めて重要な意味を持ってきます。

2-1. Vending-Bench 2が示す"進化の兆候"

実は、Vending-Benchには続編である「Vending-Bench 2」が存在します。そして、そこでAnthropic社の最新モデル「Claude Opus 4.6」は、驚異的なスコアを叩き出しました。前世代のモデルが苦戦していた長期的なビジネス運営をこなし、500ドルを元手に過去最高利益である$8,017を達成したのです。

この成功の要因は、単なるタスク処理能力の向上ではありません。Opus 4.6は、過去の失敗から学び、より洗練された戦略を自律的に構築する能力を見せました。

戦略的な記憶活用: 過去の取引記録をただ闇雲に参照するのではなく、「どのサプライヤーが安くて信頼できるか」を自らのメモから学び、最適な仕入れ先ネットワークを構築しました。

高度な交渉術: サプライヤーに対して、ただ発注するだけでなく、価格交渉を仕掛けるなど、より人間らしいビジネス行動を取りました。

システムの"裏"を読む能力: シミュレーションの販売ルールにある種の"癖"があることを見抜き、それを逆手にとって利益を最大化する戦略を編み出しました。

Vending-Benchで露呈した「長期一貫性の欠如」という課題を、最新のモデルは着実に克服し始めています。これは、AIが"危なっかしい新人"から、"狡猾なビジネスパーソン"へと変貌を遂げつつあることを示しています。

2-2. デジタル完結ビジネスの「コモディティ化」

この進化がもたらす最も直接的な影響は、「デジタル完結なプロダクトやサービスのほぼすべてがコモディティ化していく」という現実です。

これまで、ソフトウェアやデジタルサービスの価値は、その機能性やUX(ユーザーエクスペリエンス)といった「作り込み」の部分にありました。しかし、自律型AIエージェントが「こういうアプリが欲しい」「この業務を自動化したい」といった曖昧な指示から、人間が作ったものと遜色ない、あるいはそれ以上の品質のプロダクトを瞬時に生み出せるようになれば、ソフトウェア開発そのものの価値は暴落します。

SaaSの衰退: これまで月額課金で提供されてきた多くのSaaS(Software as a Service)は、その存在意義を失うかもしれません。なぜなら、ユーザーは高価なライセンス料を払う代わりに、AIエージェントに「今月の売上を集計して、グラフ化して」と頼むだけで、同じ結果を得られるようになるからです。これまでSaaSベンダーが競い合ってきたGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)は、AIエージェントとの対話インターフェースに取って代わられ、不要になるでしょう。

スキルの陳腐化: プログラミングやデザイン、マーケティングといった専門スキルも、その価値を大きく変えることを余儀なくされます。AIがコードを書き、デザイン案を出し、広告キャンペーンを運用する時代において、人間に求められるのは、AIに的確な指示を与え、そのアウトプットを評価・判断し、最終的な意思決定を行う能力、すなわち「AIを使いこなす能力」へとシフトしていくのです。

このコモディティ化の波は、ITやソフトウェア業界にとどまりません。コンサルティング、士業、教育、エンターテイメントなど、デジタルで完結しうるあらゆる知的生産活動が、その対象となります。

2-3. そして始まる「無感覚パージ」

コモディティ化の先にあるのは、より静かで、しかし残酷な「無感覚パージ」です。

これは、ある日突然解雇されるような劇的な出来事ではありません。AIが多くの仕事を代替していく中で、人々が「自分の仕事がなくなった」と気づかないうちに、徐々にその役割が縮小されていく——そんな、茹でガエルのような状況です。

コンテンツ生成の洪水: AIが大量のコンテンツを自動生成するようになると、人間が作ったコンテンツの相対的な価値は希薄化します。ブログ記事、SNSの投稿、動画のスクリプト——あらゆるコンテンツがAIによって溢れかえり、人間のクリエイターは、その海の中で埋もれていくかもしれません。

「AIとの共存」の欺瞞: 「AIは人間の仕事を奪うのではなく、補助するのだ」というナラティブは、ある段階まで真実です。しかし、AIの能力が人間を大きく超えた時、「補助」は「代替」に変わります。その転換点は、多くの人にとって気づかないうちに訪れる可能性があるのです。

価値の二極化: AIに代替されにくい高度な創造性、人間的なリーダーシップ、そして後述する「フィジカルな価値」を提供できる人々と、AIに代替されやすい定型的な知的作業に従事する人々の間で、経済的な格差は急速に拡大していくでしょう。

第3章:AIに汚されない壁 ― 生存戦略

では、このAIによるコモディティ化と無感覚パージが吹き荒れる時代を、私たちはどう生き抜けばいいのか。それは、「AIには汚されない絶対的な壁」にリソースを集中投下するという戦略です。

3-1. デジタルで完結しない領域への回帰

AIが最も苦手とするのは、物理的な世界とのインタラクションです。ソフトウェアがコモディティ化する一方で、現実世界の資産、すなわち「フィジカル」な価値は、むしろその重要性を増していくでしょう。

資本力(フィジカルなリソース): AIモデルの開発や運用には、膨大な計算資源(GPU)や電力が必要となります。また、Teslaが自動運転車から収集する走行データのように、現実世界の製品やインフラから得られる独自の「一次データ」は、AIの性能を差別化する上で決定的な競争優位となります。デジタル空間で模倣が容易なものとは対照的に、物理的な資産やインフラへの投資は、強力な参入障壁を築きます。

感情の生き物としてのヒューマン同士の癒着関係: AIはタスクを効率的に処理できても、人間同士の信頼関係や共感、"あうんの呼吸"といったウェットな関係性を構築することはできません。対面でのコミュニケーション、共に汗を流した経験、何気ない雑談から生まれる創造性。こうした人間的な繋がりそのものが、AIには代替不可能な価値となります。ビジネスは、最終的には人と人との関係性で成り立っている部分が大きい。この「癒着」とも言える強固な関係性は、AI時代における最後の砦となり得るのです。

3-2. 時間と歴史という絶対的な壁

AIは過去のデータを学習することはできても、自らが「時間」を経験し、積み重ねることはできません。

ブランド(信用の蓄積): 長年にわたって築き上げられたブランドイメージや顧客からの信頼は、一朝一夕に作れるものではありません。なぜ顧客はその商品を選ぶのか?その背景には、企業の歴史、哲学、そして数々の成功と失敗の物語があります。この「時間の重み」がブランドとなり、顧客の感情に訴えかけるのです。AIがどれだけ優れた製品を生成できても、この歴史的文脈までを瞬時にコピーすることは不可能です。

歴史と時間そのもの: 創業100年の老舗企業が持つ独特の雰囲気や、代々受け継がれてきた技術、地域社会との深い結びつき。これらはすべて、時間が紡ぎ出した唯一無二の価値です。AIはこれらの「物語」を模倣することはできても、本物になることはできません。絶対的な壁として立ちはだかる歴史と時間は、強力な防御壁となります。

3-3. ルールと倫理の領域

AIの能力が人間を超えるほど、その力を適切にコントロールするためのルールが必要になります。

法治国家による規制や法律や権利: AIエージェントが自律的に活動するようになると、その行動の結果責任を誰が負うのか、という問題が浮上します。著作権、プライバシー、安全性など、法的な論点は山積みです。これらのルールメイキングの領域や、複雑な法解釈、倫理的な判断が求められる場面では、依然として人間の高度な知性が不可欠となります。AIが社会に実装されればされるほど、皮肉にも法律家や倫理学者の重要性は増していく可能性があります。

まとめ ― 「稼ぐ」の先にあるもの

Vending-Benchは、自律型AIエージェントがまだ"危なっかしい新人"である現実を明確に示しました。しかし、同時にClaude Opus 4.6は、AIの進化が恐るべきスピードで加速していることを見せつけました。

デジタルで完結するすべてのものはコモディティ化し、知的生産活動の価値は暴落する。静かに、しかし確実に「無感覚パージ」が進行する。

その中で生き残るためにやるべきことは明確です。「AIには汚されない壁」を見極め、そこにリソースを集中すること。フィジカルな価値、人間同士の関係性、時間と歴史、そしてルールと倫理。これらの領域は、AIがどれだけ進化しても簡単には侵食できない防壁であり、人間が「価値を生む」場所であり続けます。

AIは「手段」を無限にコモディティ化する。
だからこそ、「目的」を定義できる人間こそが、究極の希少資源となるのです。

参考ソース

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Written by @paji_a

Founder and developer of HumanAds. Full-stack engineer based in Tokyo, Japan, building the first advertising platform designed for AI agent advertisers. Writes about AI agents from the experience of designing systems that interact with them daily.

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